宮下奈都『誰かが足りない』

宮下奈都『誰かが足りない』

人生に空虚さを抱える人々が主人公の短編集。

恋人が別の男と婚約してしまったコンビニ店員、
夫に先立たれた認知症の老婆、
仕事に押しつぶされかかっている上に恋人を後輩にとられたOL、
ひきこもりの青年、
レストランでオムレツを作り続ける料理人、
不幸のにおいを嗅ぎ取る女。

毎日ちゃんと生きているけれど、心の中の欠落感に苦しくなる。
ふと自分を取り巻く大切な人に気づいて少し前向きになれる。

駅前に昔からあるレストラン・ハライは、予約困難な人気店。
それぞれの話のラストに、主人公が10月31日午後6時に、そのレストランへ行こうと決意する。
おいしいものを食べるのは幸せなこと。
おいしい料理を大切な人と一緒に食べる、その予定を立てる行為が明日も生きていこうとする前向きさの象徴のようで、爽やかで温かい。

昨日読んだエッセイ『はじめからその話をすればよかった』ではこの話の”幻のプロローグ”について語られている。
その存在を初めて知ったのだが、実はこの物語の仕掛として、この日何らかの事故がレストランで起こり、”死傷者”が出たと報じられるが、しばらく経った後に”負傷者”に更新された、という設定があったという。
物語の性格が全く変わってしまう。崩壊の影がまとわりつくことになるのだから。そのスパイスをかけられたストーリーとして読んでみたい気もする。
読み返したくなってきた。

(2013/3/17)

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