小川洋子『冷めない紅茶』

小川洋子『冷めない紅茶』

『冷めない紅茶』
不慮の事故で死んだ中学の同級生の葬式に参列した主人公は、同じく同級生だったK君と再会する。
主人公は不動産営業をしている恋人と同棲中だが、彼について些細な不満が蓄積しており、K君とその妻と過ごす時間が大切なものになっていく。

この短編は死で溢れている。主人公が遭遇した人間や熱帯魚の死の描写、恋人への不満、些細な日常の風景が細かく描かれ、物語の筋だけ取り出すと非常に淡白なのだが、小川洋子の小説はほとんどこんな雰囲気だとも思う。
ストーリーの起承転結でなく文章の厚みで読ませるって他の作家はできないだろうな。
とても脆くて危うい物語である。
『ダイヴィング・プール』
孤児院を営む教会の娘に生まれ、両親がいるのに孤児のように育った主人公。
彼女の安らぎは共に育った孤児の純が飛び込みの練習をする様子をプールで眺めること。

主人公は孤児たちの特別に不幸な境遇と自分の平凡さを比較し引け目を感じているが、同時に両親がいる普通の子供なのに孤児のように育てられていることに鬱屈した感情を抱いている。
その持て余した感情が悪意になって表に出てしまうのが物語の筋である。
主人公はとても優しい子供なのだと思う。だから自分の醜い感情に傷ついてしまうところが切ない。

満たされない日々の理由付けのためいっそ人に同情されるほど、それなら仕方ないねと言われるほどに不幸な境遇に陥りたいと思ってしまうのは誰しもある発想かもしれない。
20年以上前に書かれた2作だというのに、少しも変わっていない小川洋子の紡ぐ物語に怖さも感じた。
今はもうない福武書店の文庫ということで絶版扱いです。

(読了日:14/1/30)
冷めない紅茶 (福武文庫)

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