窪美澄『よるのふくらみ』

窪美澄『よるのふくらみ』

※激しくネタバレ全開です

親子三代顔見知りといった具合の古い商店街の、文房具屋の娘と酒屋の兄弟の恋愛模様を中心に、ままならない男女の関係を描いた連作短編集。

物語はみひろ、裕太、圭祐と主人公をリレーしながら進む。
保育士のみひろは高校生の頃から付き合っている幼なじみの圭祐と同棲中。
もうすぐ30になるし、長いこと付き合ってきたしと、圭祐との結婚を見据えながらも、長く続くセックスレスの状態にわだかまりを感じている。

圭祐の弟でみひろと同級生の裕太は地元商店街の不動産屋で働いている。
客としてやってきたパチンコ中毒のせいで離婚された母子家庭の女と付き合うようになるが、子供の頃から抱いていたみひろへの恋心を捨てきれずにいる。

みひろは圭祐を好きで、圭祐もみひろを愛しているけれどふたりはすれ違い続ける。

長いこと付き合ってきて、いい年だし結婚するか、というのは割とよく見る光景。
みひろは圭祐との結婚に向かって進むことを決断し、不妊治療も始めるが流産してしまって、結局圭祐と別れて裕太とできちゃった結婚をする。
起承転結を書き出すと非常に陳腐な流れなわけだが、
最良ではないけど、それより良い目も出なそうだから現状に甘んじるって恋愛にかぎらず起こりがちなこと。
そのダメな感じと、葛藤がよく表れている。

性を軸にした男女関係に嫌悪感と、自分もそれに振り回される状態にアンビバレントなところがみひろと圭祐はそっくりだ。
みひろは中学生の時に不倫相手と駆け落ちをした母親を嫌悪し、再び戻ってきた母と今も何も変わらないように暮らしている父に苛立っている。
圭祐は浮気放題だった父を軽蔑し、母に”いんらんおんな”という言葉を刷り込まれながら、同時に父の浮気相手だった女に恋をした過去を傷のように持っている。

みひろは最終的に自分の欲望の在処を認めて圭祐より早く一歩を踏み出した。
圭祐は優等生のお兄ちゃん気質に自縄自縛な感じであるが、彼にも救いが用意されていてよかった。
子供を持つこともこの話のテーマだろう。
みひろはセックスレスの問題を子供ができないことの問題により強く紐づけているように感じられる。
裕太との一度の浮気で妊娠しなかったから不妊治療を開始し、流産して圭祐の元から去っていく。

裕太の恋人だった女も、子供のために夫とよりを戻し、夫の方も子供を思って、パチンコ中毒で借金まで作る妻をもう一度受け止めたのだと想像した。

文体は一人称で砕けた幼い印象で、あまり深刻でヘビーにならずあっけらかんと終わった感。
作者の憂いが落ちていっていると思う。

(読了日:14/2/22)

 窪美澄『よるのふくらみ』
出版社: 新潮社 (2014/2/21)

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