窪美澄『クラウドクラスターを愛する理由』

窪美澄『クラウドクラスターを愛する理由』

3冊目の著作、中編と短編を収録。

『クラウドクラスターを愛する方法』
30歳を目前としたイラストレーターの紗登子が主人公。
3年間同棲した恋人の向井くんが家を出た大晦日から物語りは始まる。
イラストレーターとして鳴かず飛ばずでそれでも踏ん張ってきた日々、
自分と弟を捨てた母との13年ぶりの再会、
伯母から寄せられる多大な期待で声が出なくなった高校時代の思い出などを振り返る。

人物描写が繊細でリアルである。
特に紗登子が恋人の向井くんとの将来について思うあれこれには非常に共感できた。
また、母子喧嘩のあたりは冷静な筆致だけど、こういう体験をしたことがない人にしか書けないのではないかと思わされるほど。
紗登子のその後が気になる一作。
『キャッチアンドリリース』

両親が離婚し母に引き取られた光と、父と共に母に捨てられた莉子が交互に語り手となり物語を綴る。
光のパートは息子から見た夫婦の破綻を描いている印象で、莉子は両親の犠牲となった子供の思考をリアルに描いていると感じた。
特に莉子はちょうど紗登子が母と別れたのと同じ年頃なので、シンクロする部分がある。
窪さんはひとの弱い部分や汚い、自分勝手なところを描くのがあまりに正直であけすけ。
それが響くのはうまいというよりもまっすぐさの勝利な気がする。
ただ、『ふがいない僕は空を見た』の強烈な”生きている感”、『晴天の迷いクジラ』の人生の痛み、苦味はかなり薄まっているように感じた。
正直小説として読みやすさは一番だけれど、前の2作でつっかかりの原因だった、私は本当に苦しいんだという声が聞こえない。

要素として、ひりりとする部分は残っているけれど、どうもどこかで見たような、女流作家の小説に収まってしまった感があり。
たぶん成功してしまったら書けない小説ってあるんじゃないかなと意地悪なことを思ってみたり。

ただ、これまでの2作のあまりに生々しい感覚にエネルギーを吸い取られがちだった身としては、これくらいの軽さは嫌いではない。
ウケてる作風を続けるよりも、作者の状況によって醸し出す雰囲気の変わる小説というのも悪くないのではないかと思う。

(読了日:12/10/25)

 

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