石田千『あめりかむら』

石田千『あめりかむら』

※物語の内容に触れています

芥川賞候補となった表題作を含む5つの短篇集。
主人公が過去を振り返る、という形で進む話が多かった。
『カーネーション』が一番好みだった。

『あめりかむら』
5年間に手術した病気の再検査の結果が思わしくなく、漠然とした死への恐怖に囚われる主人公。
1年前に無職となり、生活の糧にも不安がある中、カメラマンの助手として関西を訪ね、勢いに任せて大阪の町を旅する。
再発の可能性を告げられてから”あめりかむら”へ向かうまでの主人公の日々を、
大学生の頃、就職活動のための勉強会で出会い腐れ縁が続いていた男・戸田についての回想をおりまぜながら描いて行く。

要領がよく自分の利益のためにひとを出し抜くことも厭わなかった戸田は社会的な成功をおさめていたが、ある日唐突に自殺してしまう。
戸田の死を通して自分の生を見つめなおす、そこに猥雑な大阪のエネルギーが交じり合って、味わい深い物語だった。

『クリ』
北の街から引っ越してきて、社宅の子供たちの輪に入れない主人公と、クリという茶色い犬を連れたお姉さんとの交流。
おとなになった主人公が山間の温泉宿を訪ねる道中に回想するという形式。

『カーネーション』
大学生の主人公は、駅で小学生のとき代用教員としてお世話になった先生に再会し、自分の中学・高校時代を回想する。
直截的ないじめと、間接的ないじめふたつを目の当たりにした主人公はやがて自分の体に不調をきたしていく。
いじめの風景について主人公は冷静に観察している。非難や恐怖、同情は感じられず、その淡々とした描き方が珍しい。
なのに誰もが感じ取れる青春時代の自意識や子供の残酷さがリアルである。

『夏の温室』
悪い病気に冒された主人公が、友人と旅行に行く話。

『大踏切書店のこと』
5話のなかで異色な、穏やかで平和な人情あふれる物語。
下町情緒残る町で暮らす主人公がふと立ち寄った、古本屋と居酒屋が合わさった店で、店主や客達とゆっくり関係を築いていく様を描いている。

(読了日:14/3/2)

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