沢村凛『ぼくは〈眠りの町〉から旅に出た』

沢村凛『ぼくは〈眠りの町〉から旅に出た』

主人公の”ぼく”が球技をしている場面から物語は始まる。
ドッヂボールに似たルールのようだが、重力をはじめとする自然法則を無視した描写に、そこが普通の世界ではないことがわかる。
楽しく遊んでいたぼくは謎の男から「町から出るにはどうすればいいか」を尋ねられる。

一日中遊びながら幸福に暮らしていたぼくが衝動的に男について町を出て、『旅の仲間』を探しながらどこかへ向かう、という物語である。
理屈っぽい女の子と、天然系のとぼけた少女、眠ることが好きな男と仲間と出会っていき、最後に四人が知る真実とは、という具合で、展開として完全にファンタジーの王道。
ただおおむねドキドキハラハラや涙はなく、ストーリーも文章もなんとも淡々と自制的な印象。他の作品でもテンションの高い話を書く作家ではないのだけれど。

先は読めるし、伝えたいメッセージも、
「人間にはいろいろな考え方がある、みんな違ってみんないいみたい」
「居心地の良い場所にしがみついてないで外へ出てみろ」
的なスタンダードな道徳的なものだ。
ただ子供が読むには落ち着いているし大人が読むと毒気がなく物足りない。

作品としてはまあ普通、なのだが、なんとも掴みどころがない世界、空気感を描くのがうまいと感心する。
よくわからないものをよくわからない様に書いて理解させるのだから。
結末は凡庸だけれど、言葉や名前のある意味とか、意識とはなにかとか、哲学的に思考をめぐらせると面白さが増すのではないかと思った。
特にぼくが町からの出口を探す時、とても嫌な感じがするのにあえて不安な方向に進んで抜け出すという展開とか、ある状況に遭遇したり感情が動いた時、それを表す表現・言葉がぽこぽこ浮かんでくるが、ぼくは思い出せず流していくところとか、深味のある描写が多い。

ただやっぱりファンタジーとしてはワクワクが足りない、惜しい。

(読了日:14/3/24)

沢村凛『ぼくは〈眠りの町〉から旅に出た』
出版社: KADOKAWA/角川書店 (2014/1/29)

 

Pocket