沢村凛『通り雨は〈世界〉をまたいで旅をする』

沢村凛『通り雨は〈世界〉をまたいで旅をする』

『ぼくは〈眠りの町〉から旅に出た』と同時刊行された作品。装丁など同テイスト。ただしまったくつながりはなかった。

謎の男がある世界にやってきた、という描写から物語ははじまる。
その世界はまだ”科学”誕生以前、電気も機械もない。イメージとしては中世ヨーロッパの田舎。ほとんどが農工業に従事し、自給自足の生活。

男は祖父、両親、三人の子供の六人家族の元を訪ねる。
男はその世界では『雨』と呼ばれる存在で、それが何者かが物語のミステリ部分。
冒頭、家族の末っ子が見聞きした内容から、男は招かれざる客の印象を植え付けられる。
「家族の誰かが死ぬのではないか」と匂わされ、またそれを暗示するような描写が続く。
物語は家族六人と男の視点が入れ替わりつつ進んでいく。

”世界”の設定と男がこの家族と接触した理由など、伏線が巧みに張られている。
ファンタジーの体裁を取っているが、他の著作同様に「与えられた世界の常識、価値観への疑問」「幸せとはなにか」「理想の生き方とは」など、生きることへの問が根底に流れている。
沢村さんはやはり哲学者だなと思うのである。

その分、物語としては退屈に感じる冗長さがあるのだが、読み終わると良い話だなあ、としみじみする。
ファンタジーなのにワクワクしない、というのは評価が別れるところだろう。

ところで、帯によるとこの作品はSFらしい。
SFとファンタジーの定義は私の中でも曖昧だし本棚の中でも大人の都合で分類されている。

私はファンタジーだと思った。

(読了日:14/4/10)

沢村凛『通り雨は〈世界〉をまたいで旅をする』
出版社: KADOKAWA/角川書店 (2014/1/29)

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