小川洋子・クラフトエヴィング商會『注文の多い注文書』

小川洋子・クラフトエヴィング商會『注文の多い注文書』

クラフト・エヴィング商會に探しものを頼む依頼者の章を小川洋子が、依頼物が見つかった報告文とその物の制作をクラフト・エヴィング商會が担当するという形式の一冊。
5つのケースが収録されており、それぞれが既存の5つの小説をモチーフとしているのが面白い仕掛け。
すべてがひとつの物語として高度に成立しているのが素晴らしい。

『人体欠視治療薬』
恋人の体に触れると、その部分が見えなくなってしまう女が治療薬を依頼する。
細部にも神経が行き届いたとても出来のよい短編である。女の恋愛の顛末が切なくて意味深長。
このケースが一番好みだった(小川洋子の小説の世界観溢れている)

登場する小説は彼女と同じ症状を持つ主人公が登場する川端康成の『たんぽぽ』。

『バナナフィッシュの耳石』
サリンジャー愛好家が”バナナフィッシュの耳石”を探し出すよう依頼する。
『ナイン・ストーリーズ』に収録された一編から広がる物語で、バナナフィッシュの耳石をこんなふうに解釈するんだ、とその発想力に驚き。”耳石”のビジュアルがとても美しい。

『貧乏な叔母さん』
郵便配達員の祖父に育てられた主人公。
祖父が死んだある日、謎の叔母さんが背中に乗ってきた。最初は混乱していたが、叔母さんとの日々に慣れた頃、突然叔母さんがいなくなる。
主人公は叔母さんを探しだしてくれるよう、クラフト・エヴィング商會へ手紙を書く。
この物語は緻密なSF仕掛けが施されていて、話の軸は”叔母さん”ではなく”手紙”であるところが、連作短編の中で典型をうまく外している。
村上春樹の『貧乏な叔母さんの話』と密接に絡んでいる。

『肺に咲く睡蓮』
指圧師の老人による依頼は、突然死した客の標本商が探し求めていた”肺に咲く睡蓮”を探し出すこと。
標本というテーマは小川洋子の小説によく出てくる。
結末は予想しやすいが、納品された”標本”たちがとても美しい。
モチーフとなったのはポリス・ヴィアン『肺に咲く睡蓮』。

『冥途の落丁』
内田百閒の落丁本に隠された謎。この作品だけは、依頼者がその本をクラフト・エヴィング商會に引き取ってくれるよう頼む形になっている。
この落丁の話は実話なのだろうか?そこが気になった。

物語だけでも魅力的なのだが、クラフト・エヴィング商會により”実在するもの”として作り上げられた写真が魅力を増す。
常識で考えるとないはずなのに、実在すること。
あとがきの対談にもある通り、「ない」ことを証明することは不可能だから、どんなものでも「ある」と信じ続けることに価値はあるのかもしれない。

ちょうどクラフト・エヴィング商會の展覧会を見たから、より想像力が広がった。

(読了日:14/4/26)

出版社: 筑摩書房 (2014/1/23)
小川洋子・クラフトエヴィング商會『注文の多い注文書』

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