長野まゆみ『テレヴィジョン・シティ〈上〉』

長野まゆみ『テレヴィジョン・シティ〈上〉』

地球から遠く離れた星に住む少年たちの物語。
彼らは1000階を超える巨大なビルディングの中で暮らしている。
家族はなく、同世代の子供たちはヘルパァによって一緒に育て上げられる。

ビルから出ることはなく、外の景色さえ見えない無機質な空間で、星の周期と関係ない地球時間に基づく生活リズムで過ごす様子は養殖のような気味の悪さを感じる。
その中で主人公のアナナスは純粋に与えられた日々を生き、地球に憧れ、出会ったことのないママとパパに手紙を書く。

アナナスのルームメイトで親友であるイーイーは、アナナスの知らない秘密を知っている素振りを見せる。
上巻は地球の夏休みに憧れるアナナスの平和な空想や少年たちのささやかな冒険などが綴られ、伏線がばらまかれているようだ。
アナナスは何か重要なことを忘れていて、イーイーはそれに苛立っている。
アナナスの過剰なまでのまっすぐで純粋な子供らしさが下巻でどう物語に影響を与えるのか。

この作品は10数年前から何度もチャレンジしつつもどうも数ページも読めずにいた。
長野まゆみ作品全般を敬遠していたのもこの本が大きな原因のひとつである。
しかし長野まゆみの面白さにようやく自分の感性が追いついて、ここは我慢して読むべきだろう、と読み始めたら案の定面白かったのである。

こういう作品は他にもいくつかあり、
忍耐で読みやっぱりしょうもなかったとか、合わなかったというものの方が多いが、その分途端面白くなるものには傑作が多い。
ママとパパへの手紙や思わせぶりな展開、美しくて繊細だけど淡々とした文章は少しだるくなってしまうこともあるのだが。

最もおどろくべきことはこの作品は92年初版ということだろう。
20年以上前にセグウェイやiPadのようなものを自然に物語の中に取り入れられる感覚の鋭さ。
現実はSFを実現していくのだということを感じる。
想像力の価値を改めて実感した。
下巻も楽しみ。

(読了日:14/8/14)

長野まゆみ『テレヴィジョン・シティ〈上〉』
出版社: 河出書房新社 (1996/07)

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