小川洋子『言葉の標本』

小川洋子『言葉の標本』

小川洋子の言葉(物語)を標本化し、一冊の本を”博物館”に見立てた意欲的な作品。

2010年は紙の本が消えていく始まりの年かもしれないという不穏なはじまり。
電子書籍の台頭だけでなく、そもそも紙というものは脆く傷みやすく、それ自体が時間を経れば消えてなくなってしまうものだ。
そして標本とは永遠でないものをある状態で時間軸から切り取り保存することである。
そう風に考えれば本(物語)を標本にするという行為が矛盾しなくなる。

小川洋子の思想をまとめたパートと、デビュー作『完璧な病室』から『原稿零枚日記』までの作品の紹介という構成になっている。
作品紹介については、それぞれの物語から印象的なテキストを抜粋している。
ここで趣向が見られるのは”標本”としての見せ方。
風景や人物写真とテキストのコラージュなど、よくあるものだけでなく、テキストがプリントされた紙が試験管に入っていたり、だんだん紙が劣化し文字が見えにくくなっていったり、物語を最大限魅力的に見せる趣向が凝らされている。

1535375_671515416272324_9010076571302305212_n

ただ、そうやって標本化された物語は魅力的なのだが、小川洋子作品を1,2冊しか読んだことがないとか、イマイチ面白さがわからない、という人には響くものが乏しいかもしれない。
作品の全体像を知ってこそ、どうしてこのテキストが抜かれたのか、なぜこの演出なのかを考えることができる。

やはり最もよかったのは『密やかな結晶』のページ。
ここしかない、という最高のパートを抜いてある。

読んで(眺めて)いるとき、今後紙の本が減っていく中で紙の本である価値はこんなふうな形に落ち着くのではないかと思った。
ただ文字を印刷した紙を束ねたものではなく、物語世界を盛り上げる装飾。
手にとってじっくり眺めていたい一冊である。

そしていつかどんな物語も消えていってしまう儚さに、哀しみと魅力を感じる。

(読了日:14/8/17)

小川洋子『言葉の標本』
出版社: 文藝春秋 (2011/9/29)

Pocket