江國香織『犬とハモニカ』

江國香織『犬とハモニカ』

表題作『犬とハモニカ』はアメリカから成田へ向かう航空機内と、空港を舞台にしたグランドホテル方式の小説。
国際結婚した娘家族と過ごし帰路についた老婦人、
日本にスキーインストラクターのボランティアに来たアメリカ人青年、
離婚を望む妻とその娘、二人を迎えに成田へ急ぐ夫、などなど。

こういう、作品の発するものと自分の感性がいかに合致するか、あるいはズレを楽しめるかに成否のかかっている小説は、しっくりこなければ何度読んでも考えても一緒である。
小説としての質は高いと思うけれど、この物語が私に与える熱量はイマイチ、ものたりない。

『寝室』(ねたばれ)
長くよい関係の続いていた愛人に突然振られた男は、
愛人との日々を女々しく振り返り喪失感でいっぱいだったのに、
家に帰ったらベッドに横たわる妻に不倫する前には感じなかった新鮮さを覚える、というしょうもない話である。

『おそ夏のゆうぐれ』
チョコレートの懸賞品として書かれた一作。
読み終わってからそれを知るとまた違う味わいが。
なんというか、愛の狂気的な部分を見事に切り取っていると思った。
物語の筋とか文章の質とか、そんなことはもうはやどうでもよくて、
主人公が恋人を愛する気持ちが極限まで高まったとき取った行動がこの物語の価値のすべてだと思う。
こんな読み手を選ぶ物語を懸賞用に書いてしまう江國さんにも、それをOKした森永製菓の寛容さに敬意を。

『ピクニック』
自宅からほど近い公園で頻繁に「ピクニック」を行う夫婦。
しばらくはこんなオチになるとは思わなかった。
下手なホラー小説よりも恐ろしい物語である。
やっぱり他人の思いもよらない価値観や感情というものが、一番恐ろしい。

『夕顔』
源氏物語を現代語訳する競作企画の一編。だからチューイングガムなんて表現も出てくる。
源氏物語はあさきゆめみしすらリタイアした私ですが、有名なエピソードだったこともあり問題なく楽しめた。
江國さんが書いているからか、光源氏のタラシっぷりとダメ男さが際立っている気がする。
本当に最悪な男だ。なんなんだこの男は。
彼がどんな風に描かれているのか他の作品も読みたくなった。

『アレンテージョ』
ポルトガルの田舎町・アレンテージョのコテッジにやってきたゲイカップルの物語。
光源氏もそうだけれど、悪気のないダメ男を書かせたら江國さんは天才的。そして男のダメさを充分理解し、苦しんでいるのに逃げられない恋人の描写もなんともいじらしくて、イライラと同情と少しの羨ましさを感じる。
相変わらず食べ物の描写がすてきだ。

『おそ夏のゆうぐれ』と『ピクニック』が好み。

 

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