桜木紫乃『それを愛とは呼ばず』

桜木紫乃『それを愛とは呼ばず』

恋愛もの、文芸カテゴリではあるが、ミステリやサスペンス要素のある物語を書く作家だと思っていたが、最後の最後でこうひっくり返るとは驚いた。
ただミステリ好きとしてはこれが盛大な伏線なのかしらと思った分さくっと終わり、若干消化不良気味である。
終わり方は賛否が分かれそうだ。

勤めていたホテルが火事になり、仕事を失った亮介は、故郷の新潟に戻りやり手実業家の章子に誘われ彼女の会社に入る。その後、章子からアプローチを受け結婚した亮介は副社長となった。
章子のほうが10歳年上だが関係は良好で、事業もうまく行っていたが、ある日章子が交通事故により植物状態になったことで亮介の状況は一変する。
章子の息子と、章子の元恋人の顧問弁護士の策略で地位を追われ、東京の不動産会社に就職したが、すぐに北海道の南神居町にある廃墟同然のリゾートマンションの営業に飛ばされる。

失意の亮介は、元同僚がマネージャーを勤めるキャバレーで売れないタレントの紗希と知り合いになる。
物語は亮介と紗希の視点交互に進んでいく。
20代最後の年に事務所を解雇された紗希は、実家の釧路に戻ることもできず、鬱々とした毎日を過ごしていたが、慕っていたスタッフの自殺をきっかけにキャバレーを辞め、亮介が働く南神居町を訪ねる。

亮介に好意を持つ紗希と、それを察しながらもやんわり拒絶する亮介という構図を最後まで引きずるが、色恋の話はほぼない。

すべてを奪われ54歳にして情けなくなるような仕事をして、このまま死んでいくのかという焦燥を抱えた亮介。
紗希は釧路では評判の美少女として上京したのに、仕事は鳴かず飛ばず。枕営業も整形もせず、「そのとき」のために節制した毎日を送り、ストイックに生きていたのに、それも報われず、帰る家も無く、空虚な気持ちを抱えている。

桜木紫乃はやはり擦り切れそうにボロボロになった人を書くのがとてもうまくて、本当に救いがない。
この物語はどこへ向かっているのだろうと思った終盤、とある事件がおき、ふたりは南神居町を離れる。

植物状態の章子がとうとうこの世を去り、遺言により社長職に戻った亮介は、章子がやり残した事業を成し遂げるために奔走する。
紗希は東京へ戻り老人介護施設で朗読の仕事を始めた。
二人の時間が再び動き出した、そんな心あたたまる展開なのだが、最終章にとんでもないオチが待っていた。

最後にタイトルの意味がわかるのだが、唐突感は否めない。
個人的には好きなオチであるけど、紗希のキャラがカオスになってしまった気がする。一気に薄っぺらいメンヘラになったような。売れないタレントとして、自意識と現実の間でもがき苦しんでいる心の動きが丁寧でリアルだった分、どうしてこうなってしまった感が果てしないチープな幕引きだった。

(読了日:15/7/4)

桜木紫乃『それを愛とは呼ばず』
出版社: 幻冬舎 (2015/3/11)

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