窪美澄『さよなら、ニルヴァーナ』

窪美澄『さよなら、ニルヴァーナ』

新刊が出たのに気付かなかったのでこのタイミングで読んだわけだが。
とっても間が悪い。悪すぎる。
この物語のモチーフとなったのは神戸児童連続殺傷事件である。『絶歌』が出る直前に発売されたのは運命のいたずらなのか。
私的にはタイミングが悪すぎると感じた。
帯を読んでその点を把握し、正直「うわあ」と思ったのだが、これまで出ている本は全部読んでいるしとりあえず読まないという選択肢はないということで購入したわけだが。

読み終わって、今回のモチーフを置いておいても、個人的に実際に起った事件をフィクションで書き換える必要を感じないなと再確認した。
角田光代の『三面小説』にも、実在の未解決事件ほぼそっくりを展開した小説が収録されているのだが、実際に関わった人はどう思うのだろうと気が散って仕方がない。
関係者でもない他人が、創作という自己表現のために誰かの人生を物語に仕立てる権利があるのかという部分が引っかかってしまう。

特にこの話の場合、被害者の母親もメインの人物となるのだが、憎しみも悲しみも、あるいは忘れることさえ他人にとやかく言われる筋合いはないのではないかと思うし、物語といえ勝手に解釈されるのはたまらないんじゃないかと感じてしまった。

 

という前提で。

14歳の少年が7歳の少女を殺し、切断した首を教会に置くという事件が起こる。
それから15年が経ち、事件が話題になることも減ったが、少年Aは一部の少女たちからカルト的な人気を得ていた。

物語は4人の人物の視点で進む。
最初に登場するのは34歳の女。
小説家になることを夢見て小説を書き続けるのだが、新人賞を取れる気配もなく、ただ淡々と日々を積み上げている。
東日本大震災をきっかけに実家へもどり、妹夫婦と母と同居をはじめるが、姪の子守とお手伝いさん状態。
自分の住んでいる街に少年Aがいるらしい、という噂を耳にしてから、彼の物語を書こうと決意する。

女子高生の莢(さや)は、少年Aに心酔し、彼の足跡をたどる「聖地めぐり」をする。
その道中で莢が出会った中年の女が、娘を少年Aに殺された母親だった。彼女は自分が被害者の母親だとは告げずに、彼女と親しくなる。
そして4人目の語り手が少年Aで、自身の生い立ちから、なぜ少女を殺したのか、そしてその後の更生の日々が描かれる。

小説家を目指す女の章はとてもヒリヒリとしてリアルでグロテスクなところが魅力的だったので、その分他の3人の要素で気が散ってしまった。
莢が少年Aに心酔していく家庭も、娘の死を乗り越える母の姿も、また少年Aの歪みもとても丁寧で深みがある分、どうして実在の事件に乗っかる必要があったのかだけ解せない。

もちろん『絶歌』が出ておらず、事件が再び注目された状況でなければもう少し心持ちも違ったのかもしれないけれど。

同じ事件をテーマにした小説といえば、石田衣良の『うつくしいこども』もほぼ事実をトレースしたような物語なのだが、あちらはエンタメ的だしまったく印象が違う。

(読了日:15/7/9)

窪美澄『さよなら、ニルヴァーナ』
出版社: 文藝春秋 (2015/5/28)

Pocket