井上荒野『リストランテ アモーレ』

井上荒野『リストランテ アモーレ』

姉と弟、2人が営む小さなイタリアンレストラン『リストランテアモーレ』を舞台にして複雑怪奇な恋模様を描いた物語。

イケメンの弟・杏二は女と見れば手当たり次第に手を出すタラシであるが料理の腕前は抜群。
姉の偲は杏二と比べるとごくごくふつうの女性である。死んだ母の実家で父と二人暮らし。杏二の師匠である、もうすぐ還暦を迎えるシェフ・松崎に片思いをしている。

11章からなる物語は各章で語り手が変わる。
杏二、偲のパートが多いのだが、それ以外の人物の視点を入れることでシンプルな物語のフレームに厚みが出ている。

杏二の物語かと思ったけれど、ストーリーとしてはどちらかといえば偲が話の軸だった。
ただ最終章を読むに、やはり主人公は杏二だろうと思う。
彼と似た、女たらしの松崎と姉弟の父親に、将来の杏二を重ねてしまう。
物語は何かしらの出来事で主人公が変化する、その変化の幅や内容が魅力になるのだと思うが、結局杏二だけが変わらないという話であった。
井上荒野はこういうパターンばかりな気がする。
荒波に翻弄されながらもそれを受けきって元に戻るような。
だから、伝えたいことがいまいちよくわからなかったりする。
物語の結末ではなく過程で楽しませることができるのは筆力が高いからだなと読みながら思うのだが、さて何が言いたいのか?それはうまく説明できない。
私がこういうダメ男の魅力も、好きになる女の気持ちもわからないからかもしれない。

偲以外、登場する女性はほぼ全員杏二のことが好きであるが、遊び人である杏二が自分だけの物にはならないジレンマと戦っている。
OLの沙世は杏二のことが大好きだけれど、遊び相手でしかないことがよくわかっていて、つい上司と不倫しつつ同僚とも付き合っている。
一人で店にやってくる常連の初子は杏二に自分からアプローチできず、杏二は悪い男で初子の気持ちを知りながら流している。
杏二になびかなかったリコは松崎と結婚することを決意し妊娠という手段を選ぶ。

例のごとくクズみたいな男とそれにハマってしまうどうしような女ばかりが登場するのだが、この物語は女たちの方が現実的で強かかもしれない。
恋愛以外の悩みをかけらも描かない世界というのも人間の本質に迫って良いのかもしれないなとおもった。

井上荒野『リストランテ アモーレ』
出版社: 角川春樹事務所(2015/4/1)

 

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