有栖川有栖『鍵の掛かった男』

有栖川有栖『鍵の掛かった男』

作家アリスシリーズ最新刊は原稿用紙972枚という大長編。私的にも500ページを超える小説は久しぶりかも知れない。

大阪・中之島にあるプチホテル『銀星ホテル』に5年間逗留していた老人・梨田が縊死した。
銀星ホテルを定宿とし、梨田とも顔見知りだった大御所の女性作家は、自殺という警察の判断に不信感を持ち、梨田の死の真相を解明することを火村とアリスに依頼する。
完全犯罪が自殺として処理されようとしているかもしれない、という作家の言葉におされて依頼を引き受けたアリスは、梨田の過去を洗い始める。

有栖川有栖の小説はそう派手な展開もなく、文章も落ち着いているので非常に淡々と進むのだが、今回は特にそれが顕著だった。
梨田は何者で、どんな目的でホテルに滞在を続けていたのか。その死は自殺なのか、殺人なのか。犯人は誰なのか。それが今回の話のメインの謎になるのだが、梨田の正体を探っていく前段が非常に長く、スローペース。始まりから200ページ位はほんとうにしんどかった。
ホテルの支配人夫婦やスタッフ、梨田と顔見知りの宿泊客、定期的に参加する病院と悩み相談電話のボランティア仲間などに話を聞きながら、少しずつ梨田の情報を集めていくが、輪郭はぼやけたまま。

ミステリの盛り上がる場面は殺人と謎解きであるが、その殺人がもう終わっているので最後の山を目指してひたすら登っていくしかない。ネタバレになるが他に死ぬ人もいないので、果たしていつ盛り上がりがくるのだろうかとだるくもなってくる。
大学入試試験で多忙な火村先生は電話などでちょっと登場するだけなので余計にページの進みも遅くなる。

しかし、刑事から梨田の過去について情報が入り、またホテルにやってくる前の梨田を知る人物が現れたところから情報の密度が高まる。ここまでくると、前半でせっせと蒔かれた種が一気に芽吹く形で、梨田の人生と彼を取り巻く人々の関係性が明らかになる。
耐え忍んだ分、ここからはひたすら事件の真相に向かって駆け抜けていく。
ある作家が伏線は張るほどに結末は意外性がなくなると言っていたが、これもまさにそうで、真相はこういうことじゃないかしら、という仮説が立ちやすく、それを確認したくて読み進めたくなる。
事実200ページぐらい読むのに2週間近く持ち歩いていたのだが、後半は数時間だった。

運命のいたずらとしか言いようが無い梨田の数奇な人生はストーリーは読み応えがあったのだが、肝心の殺人の動機については、「あれ、そんなもん?」って肩透かし感がすごかった。
殺人が蛇足にすら感じられるほど。
この理不尽さがいい、という理屈をつければよいのだが、どうせならここにももうひとつドラマがあればよかったのにと思わなくもない。

また、火村先生の本格登場が非常に遅く、活躍も少なめなこともあって火村成分を渇望している人には物足りないかもしれない。

“火村英生シリーズ”13年ぶりの書き下ろしというフレーズを見て驚いたのだけれど、そうかそんなに月日が経ったのかとしみじみである。

調べてみれば『46番目の密室』の刊行が1992年。
私が有栖川有栖を知ったのは1998年くらいだろうか。初読もそれくらいだろう。
まだ12歳とかの子供だった自分が気づけばアリスと火村先生の34歳という年齢に近づきつつあり、寄る年波を感じる。

そして読んでいるタイミングでドラマ化という話が出て、斎藤工が火村先生という(彼も34歳らしい)、なんとも言えない配役に唸る。ちょっと顔が濃すぎないだろうか。他に候補も思い浮かばないが、堤真一とかどうだろうか。
堤真一が好きなだけだけれど。『容疑者xの献身』のくたびれた感じとかぴったりだと思う。
麻々原絵里依はとてもイメージぴったりだからアニメの方がよかった。

(読了日:15/10/31)

有栖川有栖『鍵の掛かった男』
出版社: 幻冬舎 (2015/10/8)

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