津村記久子『この世にたやすい仕事はない』

津村記久子『この世にたやすい仕事はない』

自己啓発本にありそうなタイトルだけど、リドルストーリー系のお仕事小説である。
36歳の「私」は仕事に病み退職。
職業安定所で紹介される、容易いようで難のある風変わりなお仕事の日々を描く連作短編集である。

第1話『みはりのしごと』は、小説家の女の生活を観察し続けるお仕事。
小説家本人も知らず預かっている「犯罪の証拠」を手にするまでの、ひたすら観察の日々。
津村記久子の小説は1行でまとめられることを何ページにもわたって詳細に綴るようなところがあり、その克明な描写を楽しめるかどうかが、「合う合わない」に繋がる。
特にこの話は「私」が何者かよくわからず、何をしているかもよくわからず、カメラの中の小説家の生活と私についてが細々書かれるのでストーリー的にはかなり冗長である。
こんな調子でどうなるだろうと思ったのだが、少し主人公の事情が明らかになる2話目以降は仕事の内容や展開もドラマが出てきて面白くなってくる。

第2話『バスのアナウンスのしごと』
赤字路線の広告収入を得るため、バス内のアナウンス広告を販売することになったバス会社。
前職を辞した主人公はそこでアナウンスを作成する仕事に就く。
仕事の内容も展開も一番好きな話だった。

第3話『おかきの袋のしごと』
広告アナウンス作成が一段落し、「同じような仕事だから」と紹介されてたのはおかきメーカーの商品パッケージに書く「小話」の製作。
手探りでやっていた仕事が楽しくなって、でもつらくなって、そしてとある人物の登場により仕事を辞めようと思うまでの心の動きがとてもリアルだ。

第4話『路地を訪ねるしごと』
新しい仕事はポスター貼り。はじめて事件らしい事件に巻き込まれる。

第5話『大きな森の小屋での簡単なしごと』
森のような広大な公園の小屋にただいるだけの仕事に就いた主人公。
最終話ということで、ここで主人公は次の一歩を踏み出すきっかけを得る。

 

各話や全体として大きな感動があるというわけではないのだけど、どんな仕事も楽しいことも大変なこともあるよね、と改めて思う。
それでも人は働くのはなぜだろうな、とふと考える。

(読了日:15/11/15)

津村記久子『この世にたやすい仕事はない』
出版社: 日本経済新聞出版社 (2015/10/16)

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