吉田修一『日曜日たち』

吉田修一『日曜日たち』

吉田修一の書く物語はひりひりする。
登場人物たちは特別不幸なわけでもなく、物語の中でとてもひどい目に合う、というわけでもない。
だけど、なんとなく満たされていなくて、将来にはモヤがかかっていて、でも特別な物語になって人に語れるほど珍しくもない、ありふれた不幸さなのである。

5つの短編の主人公たちは、それぞれ人生の中で引っ掛かりをもって生きている。
ふとしたきっかけに過去の出来事を思い出し、その中に共通して登場する兄弟。
彼らは物語の主人公ではないのだが、主人公たちにも読者にも印象的な存在として残り連作を貫く軸となっている。
どちらかと言えば恋愛ものだろう。
主人公たちは恋愛にまつわるほろ苦い過去に思いをめぐらせ、今と行ったり来たりしながら物語は進んでく。
各話40ページほどの掌編で全体の分量も短いのだが、物語ひとつひとつが濃いので読み応えがある。

出来事の描写が丁寧でリアルなのだが、特に『日曜日の被害者』で描かれる新幹線の中の出来事が秀逸だった。
主人公を始め登場人物の心情やその変化、場の空気が映像のように鮮やかに思い描かれる。
場面を緻密に書くとテンポが悪くなり読むのが面倒になる場合もあるのだが、今回は1話が短いので気にならなかった。

他の作品もそうだが、全編にわたって憂鬱で、気だるい雰囲気が漂っている。
でもわずかだけど未来へ心を移せるような、ささやかな期待の予兆も感じるのである。
つまらなかったり苦しかったりする人生がありふれているように、希望も喜びも実はひっそりと転がっているのかもしれないと感じる。

(読了日:15/12/8)

吉田修一『日曜日たち』
出版社: 講談社 (2006/3/15)

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