大島真寿美『あなたの本当の人生は』

大島真寿美『あなたの本当の人生は』

新人賞を受賞し作家になったものの、芽が出ずにいる國崎真美。
ファンタジー作家として一時代を築いたが、短い文章も書けなくなって隠棲している森和木ホリー。
偶然出会った森和木ホリーに、衝動的に人生を捧げることになった宇城圭子。

それぞれの形で書くことに人生を翻弄された3人の女性が過ごす日々を描いた長編。
物語は3人の視点が順繰りに進んでいく。

新人作家の國崎真美は、自分を見出してくれた編集者・鏡味の提案で、大ファンの森和木ホリーの屋敷に弟子兼お手伝いとして住み込みで働くことになる。
晩年を迎えたホリーは未完となっているファンタジー小説の続きを書くことはおろか、エッセイすらも秘書の宇城が書いている始末。
真美は宇城がゴーストライターであることにショックを受け屋敷を飛び出すが、連れ戻され、その後コロッケを作り始める。
コロッケの下りが物語の展開としてかなり唐突で、いったいこの話はどこへ進むのかと思ったが、やがてコロッケをきっかけに人間関係がほぐれ、とうとうホリーの別れた夫にも繋がっていき、3人それぞれの時間が動き始める。

物語の「今」とは別に、3人がそれぞれ人生を振り返っていくので、3人分の人生を眺めるような気持ちになる。別に魔法使いが出てくるわけでもないのだが、ファンタジーというか良い意味でリアルな感じがない。

この作品のプロモーションテキストで「書くことに囚われた」と記されているように、3人はそれぞれの形で書くことに大きな影響を受けた。むしろ書くことの上に人生が積み上がっていると言ってもいいかもしれない。
3人はキャリアも性格もまったく違うのだが、誰かか、もしくはどの人にも共感できる部分がある。

新人作家の真美は、新人賞を受賞したけれど、鳴かず飛ばずで「賞味期限切れ」を感じ、自分には才能がないのではと不安になっている。だが、なまじっかデビューして「小説家」となってしまっているから、他の道を選ぶのも踏ん切りがつかない。
小説家でなくても、最初の打ち上げは華々しかったけれど以降ぱたりとうまくいかなくなる、ということはよくあって、生活水準と一緒で自己評価も上がってしまうと下げるのは非常に難しいなと思わされる。

小説を書くことで翼を得た気持ちでいたのに、書くほどに人生が崩壊していき、大きな屋敷に取り残されたホリー。
仕事がうまくいくほどに夫と心は離れ、最後は夫に金を使い込まれて離婚に至る。
以降、宇城を雇い入れてから生活は安定するが、だんだんと書くことができなくなってしまった。
ホリーのように華々しく作品が売れた後、ぱったり著作をみなくなった作家は両手に余るくらい思いつく。一度高みに登った人しかわからない世界というものがあるのかもしれない。

宇城は30代なかばから20数年をホリーの秘書として過ごす。結婚もせず、生活は安定しているがホリーの身の回りの世話をする日々。ゴーストライターとしての人生を受け入れていたが、ホリーの別れた夫に自分がゴーストライターであると言い当てられ、取り乱す。
真美には「文章なんて誰が書いていようが読み手にはわかりっこない」と言いつつ、自分がホリーの影武者であることにアイデンティティを感じている。それが、自分とホリーの文章は全く別だと言われて混乱するのだが、最終的に彼女は「宇城圭子」として文章を書くことになる。

最後はそれぞれの形で新しい生き方を見つける3人。
才能とは、自分にしか出来ないことはあるのか、幸せな人生とは何かなど、ふんわり思考が巡る。
内省的な文章で、散文のような書き方も散見されるので好みはあるだろうけど、閉ざされた世界で起きるちょっとファンタジーめいた展開に合っていると思った。

なんだかコロッケが出てくるまでつかみどころのない話だったのだが、コロッケ以降展開も内容も濃くなり核心に至った。
ついでにコロッケが食べたくなった。

(読了日:15/12/20)

大島真寿美『あなたの本当の人生は』
出版社: 文藝春秋 (2014/10/7)

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