長野まゆみ『フランダースの帽子』

長野まゆみ『フランダースの帽子』

短編集。
近著はイマイチ入り込めない作品が多かったが久しぶりに好きな雰囲気だった。
うすい幕一枚で隔てられたような感覚。
ミステリなのかホラーなのか、ファンタジーか、あるいは恋愛物なのか。
色々な要素が入り混じって、長野まゆみの小説というジャンルができあがっている。

90年代の作品に比べるとやはりだいぶん、水気の抜けたような気がしてしまうのだが、やはり長野まゆみは天才だなと思うのである。
好きかどうか、合うかどうかは置いておいても、こんな話を書ける人は他にいない。

『ポンペイのとなり』
認知症の進みつつある母親の面倒をみる主人公は、実家の郵便受けに弟宛のはがきを見つける。
はがきは古い友人の娘を名乗る人物からのもので、それをきっかけに主人公は子供時代に思いを馳せる。
短い中にいくつも仕掛けが潜んでいて、不思議な読後感。

『フランダースの帽子』
双子のようによく似た姉妹が語る、双子のようによく似た父と叔父のエピソード。
20年ぶりに事の真相を知る主人公。
そのきっかけは、展覧会で誰かに購入されて、行方知れずとなった自分の絵との再会。
物語の軸が段々とズレていく凝った構成である。

『シャンゼリゼで』
前2作がきょうだいがキーになるから、連作かと思えば次からは全く異なる展開だった。
生活雑貨店のオーナー、モモコが主催する読書会。
この日のテーマは20冊だけ作られた古い詩集。
モモコは詩集が作られた背景を参加者に解説するが、それはモモコの出生の秘密に繋がっていく。

『カイロ待ち』
猫と夫とともに、段丘の集合住宅に引っ越した主人公。
奇妙な隣人たちへの不穏な予感が当たって、主人公は原因不明の体調不良に悩まされる。

『ノヴァスコシアの雲』
丘の上にある営業所へ通う道の途中、「雲の事務所」という看板を掲げた建物が気になる主人公。
営業を装って訪ねてみたら、不思議な老婆にもてなされる。
ホラーかファンタジーかとおもいきや現実的なオチがつく。
主人公は若い男で、同性愛の要素を滲ませていて久しぶりの長野まゆみテイスト。

『伊皿子の犬とパンと種』
ニューカレドニアでダイビング中に事故に遭い、記憶喪失となった男。
彼は母親のような年齢の女性と関係を持っている形跡があり、謎に満ちた生活を送っていた。
自分自身のことをまったく思い出せない男の「観察記録」的な体裁を取っている。
 

(読了日:16/4/9)

長野まゆみ『フランダースの帽子』
出版社: 文藝春秋 (2016/2/19)

Pocket