吉田修一『橋を渡る』

吉田修一『橋を渡る』

吉田修一らしい群像小説。
20代〜30代前半の主要人物が多いイメージだったけど今回は少し年齢高めの設定。
2014年の東京で暮らす3人(3家族)の日々が綴られる。
回りくどいというか、世界を立ち上がらせるためにどうでもいいことをくどくど書く筆者なのだが、今回はそれが顕著だった。
そのくどさがいい感じに効果的な場合もあるのだが、今回は冗長な印象だけ。
分量があるはずなのに終わってみると物語が進んでいる感が乏しい。
特に盛り上がる場面がなかったせいで、登場人物に共感できないと、どうでもいい話だなあ、という感じであった。

また、連載が2014年ということで、まさにその当時の時事問題が取り込まれている。
これは物語にとって外せないネタも多分に含んでいるものの、
個人的にあまりに時代性を感じるキーワードが出てくる話は好きではないので、とても気に障って集中できなかった。

この点は好みの問題だけれど。

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2014年東京。
春、夏、秋と季節と共に3人の主人公が移り変わる。
3人は直接の繋がりはないが、同じ時間軸を生きているのでたまに共通項が出てくる。

1話は、ギャラリーを経営する妻と高校生の甥と暮らす明良が主人公。
ビール会社に勤め仕事に大きな問題はなく、妻に大きな不満はない。一軒家も購入し、子供はいないが順当な人生を歩んでいる。
妻のギャラリーに売り込みに来た自信過剰な画家と、玄関に置かれる米と酒。
ミステリならこのあたりが軸になるところだが、
全体として日常に倦んでいる空気が漂っていて、具体的には書かれないけど明良の現在の生活への不満が端々ににじむ。
その不満も致命的なものではなく、選ばなかった未来を惜しんでいるようで、うじうじした男だなあという印象のまま終わった。
甥っ子の恋人やら、昔いい感じになりそうだった女性やらに対して思い浮かべる感情が気持ち悪い。
世の中年はみんなこんな気持ちを抱えているのだろうか。

2話の主人公はもっとよくわからない。
都議会議員の妻で、一人息子を育てる専業主婦。
世間からバッシングを受けている議会中のヤジは、自分の夫が「犯人」ではないかと疑念を持っている。
最初からノイローゼ気味だったのだがどんどん壊れていく。
思考回路が私の一番キライなタイプの女でイライラするけど、こんなにイライラさせられるということは表現力が高いんだなあと思いながらイライラしていた。
夫への疑念がある中で、夫が本当に犯してしまったある犯罪を知ることで決定的に壊れてしまう。
1話も2話も、中途半端な感じで終わるのだが、あとで伏線もオチも回収される。

3話は主人公の年齢が若返り、TV局の報道ディレクターが主人公。
婚約者が昔片思いしていた男と会っていることを知り、揉めるという展開なのだが、仕事に関する話として展開される時事ネタ(2014年の)は蛇足感があった。
彼がこの物語の中で一番よくわからない。

そして最後の4話はまさかのSFである。
1ページ目から意味がわからなくて、何言ってるんだというかんじであった。
3話でなんであんなまどろっこしい話をしていたのかとか、1話や2話で起こったあれこれが繋がるのだが、
想像していない確度で「解決編」が出てきて、なんだこれ、と思いつつ一読して、エピローグの内容を確認してからもう一度ちゃんと読んだ。

4話の「冬」の章を読み、エピローグを読むと、帯の意味はわかるのだけれど。

3人はそれぞれ、現在の生活に悩みを抱えている。
読んでいるときは、
「あの時この道を選んでいればよかった」
という後悔だと思っていたけれど、
最終章を読むと、各物語の終点をもっと未来から振り返って悔いているのだとわかる。
ネタバレな気はするが、こんなネタが用意されているとは予想しないからバレになってないかもしれない。

4話とエピローグの、2種類の結末が用意されているのはなかなか凝っているなと思ったものの、あまりに4話がぶっとびすぎていて、これは反則だなあという感じだった。
丁寧に書かれているならともかくあまりに駆け足すぎて、取ってつけた感が強い。

 

(読了日:16/5/30)

吉田修一『橋を渡る』
出版社: 文藝春秋 (2016/3/19)

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