井上荒野『ほろびぬ姫』

井上荒野『ほろびぬ姫』

両親を事故で亡くした直後に出会った美術教師と親しくなり、19歳で結婚した主人公のみさき。
4年間の結婚生活は穏やかなものだったが、ある日、夫が行方知れずだった双子の弟を連れて帰ってくる。

外見はそっくりな夫と弟に戸惑うみさきだったが、
夫が不治の病に冒され、更に自分の死後にみさきの面倒を弟にみさせようとしていることを知る。

衰えていく夫と、反比例するように自分の中で存在感を増していく弟。

最大のしかけは、みさきが夫も弟も「あなた」と表現することで、読んでいる側はそれがどちらの男を指しているか考えなくてはいけないこと。
ある程度意識して読む必要があるから、途中で疲れてくらくらする。
短い割に時間がかかってしまうのはそのためで、内容も単純だから設定と文章ありきという感じである。

井上荒野はとても文章がうまいので読ませられるが、凡庸な作家ならば途中で破綻するか、いや、そもそもこんなもの書こうと思わないだろう。

なんだか現実ではない空気をまとっているのだが、ラストはサスペンスにありがちな展開であった。

(読了日:16/6/29)

井上荒野『ほろびぬ姫』
出版社: 新潮社 (2016/5/28)

Pocket