三崎亜記『ニセモノの妻』

三崎亜記『ニセモノの妻』

久しぶりに新刊が出た気がする三崎亜記。
最近好きな作家の刊行ペースが落ちている気がする、悲しい。

今回は「夫婦」の関係が中心となっている短編集。
4つの話に繋がりはないいが、いつも通り、「現実のようだがちょっとおかしい世界」に生きる人々の話である。

『終の筈の住処』
新興住宅地に建ったマンションに入居した新婚夫婦。
マイホームも手に入れ順風満帆に暮らす2人だが、ひとつだけおかしなことがある。
それはマンションの住人にまったく会わないこと。
三百世帯以上が暮らしているはずなのに、住人の気配がしない。
ある日、主人公である「夫」は、近隣地区の住民がマンションの建設反対運動を起こしていることを知る。
反対運動への対応を考える自治会が開かれるが、夫以外の全住民が欠席し、夫は管理会社の担当者と協議させられるはめに。
40ページ程度の短編なのでオチがあるのか無いのかという感じであるが、世にも奇妙な物語にありそうなストーリーである。

『ニセモノの妻』
表題作。
見た目も中身も「本人」にそっくりな、「ニセモノ」が現れる世界。
妻がある日「私はニセモノかもしれない」と言い出した。
主人公は、妻がホンモノなのかニセモノなのかわからないが、「ホンモノの妻」を探すため、ニセモノの妻と共にある町を訪れる。
そこでふたりが事件に巻き込まれる、というのが大筋なのだが、物語の核心はその後に用意されていた。
何がニセモノで、何がホンモノなのか。
他の作品同様、主人公の内面が非常に抑制されて描かれているので想像が膨らむ。

『坂』
最近の三崎亜記の作品で目にする社会情勢を暗に投影した一作。
空前の「坂ブーム」が起こった社会。
「坂道愛好」が広がる中、坂のどこを愛するか、評価するか派閥ができ、坂に関する社会問題も頻発。
夫婦は、妻が主義主張のため「坂を占拠する」活動に加わったことで対立関係に陥ってしまう。
冷静に坂と向き合っていた夫だが、仕方なく住民側として坂を占拠する団体と交渉をおこなうことになる。

理屈っぽい部分の多い話なのだが、現代社会の問題への皮肉たっぷりでにやりとする話。

『断層』
他とは毛色の違う作品。
また、前の3話は「奇妙な世界の前提」が共有されているのだが、この作品は「奇妙さ」が謎であり、物語の重要なキーになっている。

異様にハイテンションでイチャイチャしている夫婦のやり取りと、何か面倒なことの当事者となっているらしき夫が交互に描写される。
ほどなく、夫婦のやりとりは「9月12日」に限られていることに気付く。

『失われた町』『刻まれない明日』と共通する、愛する人を失う静かな悲しみが根底に流れる物語である。
個人的にこのテイストが好きなのだが最近はこういうのを書かないなあ。

(読了日:16/8/27)

三崎亜記『ニセモノの妻』
出版社: 新潮社 (2016/4/22)

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