江國香織『抱擁、あるいはライスには塩を』

江國香織『抱擁、あるいはライスには塩を』

風変わりな柳島家のひとびとを描く長編小説。

イギリスで出会った遊学中の日本人の坊ちゃんと、亡命ロシア人女性の間に生まれた三人きょうだい。
次女は半年で離婚した出戻り、末っ子長男は典型的な放蕩息子の自由人。
長女とその婿は4人の子供を育てているが、一番上の女の子は父親が、末っ子の次男は母親が違う。

古い大きなお屋敷に両親と姉兄弟、祖父母に叔父叔母の10人で暮らしている陸子が最初の主人公。
柳島家の子供は大学に入学する年まで家庭で教育を受け、学校には通わない慣わしなのに、ある日長女以外の3人が小学校に通うよう命じられるところから物語りは始まる。

陸子の成長記かと思えば、次の章では時代が下り、陸子の姉の父親の妻が主人公になる。こんな風に、ぱっと意味がわからないほど複雑に人間関係の入り乱れる柳島家三代の物語を、柳島家の人々と、彼らを取り巻く人たちが入れ替わり時間軸を跳びながら語っていく。

しばらく読み進めないと誰が語り手かわからない風に書かれているので、今度は誰の話なのかとわくわくするし、何より最初の頃はどんどん意外な人物が出てきて、他の章で語られた人物像との違いに驚いたりする。

中には幼い陸子が主人公のため全編ひらがなとカタカナだけ、という章もあり濃淡さまざまながらそれぞれの魅力があり飽きない。

パッチワークのようでそれぞれのお話も魅力的だけれど、物語のなかで伏線が張り巡らされ、謎が解けたり意外なつながりが判明することも。前に名前だけ出てきた人が実は濃い繋がりを持っていたりする。

陸子の叔母の百合が離婚に至るまでの話と、陸子の姉の望が実父と異母姉と一緒に動物園に行く物語が特に好きだった。
ロシア人の祖母絹が最終盤で明かす秘密はとても鮮烈。

時間を行ったりきたりして、600ページに及ぶ長編ながら長さを感じさせない、ずっと読み続けたいと思うお話。

 

(読了:2012/5/10)

 

 

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