山田詠美『ジェントルマン』

山田詠美『ジェントルマン』

外見も内面も「完璧」な同級生の本性に触れ、生涯を賭ける恋に落ちた主人公の話。
30代となった二人を軸に、今と過去を行ったり来たりする。
なんとまあ完全なるゲイ小説。

優等生で万人に優しい漱太郎の歪みきった性衝動と、それをひっくるめて漱太郎を愛する夢生。
漱太郎の犯した罪の話を聞き、二人で過ごす時間に幸せを感じる夢生、
表面的には緩やかな関係を続けていた二人だったが、夢生の可愛がっている後輩と漱太郎が偏愛している妹が接近したことでバランスが崩れる。

短い話だけどすごく濃い。
漱太郎が自分にしか見せない裏の顔が夢生のプライドで、生きる意味なのかと感じた。
夢生と漱太郎の同級生で、漱太郎の本性を薄々察している圭子が悲しい。
漱太郎の妻をはじめ、善良そうに見えて裏には生々しい感情を抱えていたり、
逆にツンケンしながらも情が厚かったりと、
漱太郎以外の登場人物にも二面性を持たせることで人のままならない部分が浮き彫りになっている。

ただ、一般文芸作品にしては同性愛や性的暴行など生々しい描写が多くて、ここらへんで無理な人も少なからずいるだろうなと思った。
私的には面白いと思う、かなり。
徹底的に歪んだ人を嫌悪しながらも惹かれていくというのは人の残酷な習性かもしれない。

章立てがなく自然に場面は移り変わり、また現在と過去も境目なく行ったり来たりするので、夢生の一人語りを聞いているような不思議な感覚にもなる。
ねっとりした話の割に妙にピュアな印象を持つのは夢生の価値観が一貫しているからかも。
もっとドロドロはちゃめちゃにもできそうなのに、200ページ程度という短さでまとめて、ただ愛の物語にした潔さがよいと思う。

結局ひとかけらも語られることがなかった漱太郎の本心だけど、
私はたぶん漱太郎は夢生を愛してはいなかったなと思った。
そしてそれを夢生もわかっているのではないかと思う。

でもこれはハッピーエンドじゃないかな、愛の物語としては。

(読了日:2012/2/10)

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