恒川光太郎『金色機械』

恒川光太郎『金色機械』

日常にあるものが日常にないものと融合した作品をマジック・リアリズムというらしい。
そのマジック・リアリズムの天才だと思っているのが三崎亜記とこの作家。
久しぶりに新刊を読んだけれどこれまたとてつもないのを出してきた。
江戸時代が舞台(しかし本筋にはさほど影響及ぼさない)。
父に殺されそうになり逃げ出した熊悟朗は、山賊に拾われ彼らが隠れ住む鬼御殿で奉公することになる。
人の殺気と嘘の気配を察知できる能力により成果をあげ、
長じて麓の町に作った女郎屋の主人を任されていた熊悟朗の元を少女が訪ねてくる。

少女はなぜ熊悟朗を訪ねてきたのか、という謎に集約していく形で、熊悟朗、少女とその両親、鬼御殿に関わる人々の人生を、時代・場面を行ったり来たりしながら描いてく。
440ページという長編ながら飽きることなく読めてしまった。
登場人物が多く時代が前後していくけれど混乱しない、むしろだんだん伏線が結び合っていくところがどんどん先を読みたくなる。

ひとつこの物語の主題を絞るなら少女の仇討ちである。
ただ、単純に正義が悪を倒す話ではない。

少女も含め、登場人物たちはみんな殺人を犯す。
熊悟朗は山賊稼業の中で子供の頃から人殺しに加担してきたし、少女は触れるだけで人を殺すことができる能力を持っている。
熊悟朗を助けた山賊にしても、少女の両親や夫も、ある場面ではとても良い人物だけれど、別の場面では自分の都合で人の命を奪うことに躊躇しない。
人殺しの能力に苦悩していた少女も、自分の都合と感情で人を殺す。

悪いこと(この物語の場合人殺し)をする側にも事情がある、ということを全体を通して強く感じた。
何が正しいのかは簡単にひっくり返り、誰も正論を説く人はいないのがある意味潔い。

おしまいはとても切ない。
救いがないように感じてしまうのも、正義はなにか明確に絞ることはできないからかもしれない。

タイトルの金色機械は、月から来たと言い伝えられる全身が金で覆われた人型の生物で、この金色様のおかげで物語のミステリ部分がごりごり解明される。
特殊能力はありつつ基本的にスタンダードな人間ドラマの中、金色様の異質さが際立っている。
ふと色々考えてしまう、久しぶりにすごくよい一冊。

(読了日:13/10/23)

恒川光太郎『金色機械』
出版社: 文藝春秋 (2013/10/9)

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