窪美澄『アニバーサリー』

窪美澄『アニバーサリー』

75歳の現在もマタニティスイミングの指導員として活動する晶子と、彼女の生徒であるシングルマザー真菜の交流、それぞれの半生を描いた物語。

デビュー作と同じく、「母と子」「出産」というテーマが物語を串刺している。

冒頭、晶子はスクール中に東日本大震災に遭遇する。
そこから晶子の回想がはじまり、戦争の経験、NHK勤務の多忙な夫との生活、2人の息子の子育てに追われる中、40になろうという年から水泳のインストラクターを始め、それが天職となる過程が描かれる。
晶子の人生は現在へと辿り着き、震災当日、帰宅途中に気がかりな妊婦である真菜の家を訪ねる。
売れっ子料理研究家を母に持ち、裕福な暮らしの中でもやもやを抱えて育った真菜は、中学で出会った有名俳優の娘と親しくなり援助交際を始める。
無軌道で破滅的な女の子がシングルマザーとなるまでが第2章。

その後は震災後の混乱の中で母として戸惑いながら進む真菜と、それを陰ながら支える晶子の物語に合流するわけだが、私的にはそれぞれの回想が物語のピークだったのではないかと感じた。

真菜の放射能への恐怖やこれから先、生きていくことへの不安はもっともな話だけれど、課題があまりに現在進行形かつ一般的な内容になってしまい、物語が妙に現実感を帯びてしまった気がする。
私の趣味の問題ではあるけれど。
とても厚みがあり引き込まれる話だったものの、
いきなり主人公が75歳、すぐに回想へ入ったことでこの話はどこに着地するのかと、冒頭だけ読んでしばらく放置してしまっていた。
再度読み始めたらスムーズに入ってきたけど、晶子の回想部分は古い世代の話ということもあり、空気に馴染めるかどうかで感想が変わりそう。
全体的に展開も文章のトーンも低く、はまりきらないと読み進められないかもしれない。
主人公含め登場人物みんな身勝手でズルいところもあるけれど、誰にでも事情があるんだよな、と広い視野で考えるとまた面白いかもしれない。
人によってどの箇所が刺さるかどれくらい響くかはかなり変わってくるのではないかと感じた。

晶子は典型的な戦後の奥様で、真菜も軽薄ないまどきの女子学生である。少し極端な生き方・考え方だけれど、対照的なふたりの人生それぞれ感じるものがあった。
女性の人生は男性よりバラエティに富んでいて豊かなのではないかとふと思う。

(読了日:13/11/3)

 

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