小川洋子『海』

小川洋子『海』

人と人の交流が軸となっている短編集。
魔法使いも超能力者も出てこないけど、なんだかファンタジーな雰囲気をまとった世界。

『海』
恋人の実家を訪れた主人公は、彼女が「小さな弟」と呼ぶ青年と一晩の交流を持つ。

『風薫るウィーンの旅六日間』
必ず迎えに来ると言って帰国し、二度と戻ってこなかった元恋人に会うためウィーンへやってきた未亡人と、
彼女と同じツアーに参加していたことからなりゆきでヨハンが余生を送る養老院を訪ねることになった主人公の六日間。
意味深で高度なオチ。

『バタフライ和文タイプ事務所』
新米タイピストである主人公と活字管理人の交流を描いた作品。
純文学的淫靡さがある。
『薬指の標本』と似たような印象を持った。
ストーリーとしてはどうってことないけど、裏側にはどこまでも深い世界が広がっている感じ。

『銀色のかぎ針』
マリンライナーに乗り合わせた編み物をする老婦人を見て、
祖母を思い出す話。

『缶入りドロップ』
たった2ページなのに幼稚園バスの運転手の優しさとユーモアと子供を想う心が過不足なく感じられる物語。
絵本にしてもいいくらいである。

『ひよこトラック』
ドアマンとして働く主人公が下宿先のしゃべらない女の子と交流する話。

『ガイド』
フリーの観光ガイドをしている母のツアーに参加した小学生と、
思い出に題名を付ける仕事をしている老人との交流。

物語としてはどうってことない、ゆったりしたテンポで進むけれどひとつひとつの描写や表現が豊かである。
味わって読む作品、合う合わないがぱっきり分かれそう。
ひよこが一番よかったかな。

(読了日:13/1/8)

 

 

 

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