小川洋子『やさしい訴え』

小川洋子『やさしい訴え』

愛人がいる上にたびたび暴力をふるってくる夫に愛想を尽かし、東北の山中にある別荘へやってきた主人公。
幼少時から親しんだ別荘で暮らすうちに、近くの作業場でチェンバロを作る男とその弟子と親しくなる。

主人公の瑠璃子はふたりと穏やかな日々を過ごしていたが、だんだんチェンバロ職人の新田に惹かれていく。そしてチェンバロ作りを介して自分より新田と親しい位置にいる弟子の薫に嫉妬心を抱くようになる。
三人が過ごしたいくつかの季節を描いた恋愛小説。
瑠璃子は小川さんの主人公としてはとても女性的というかねっとりヒロイン気質で珍しさがあった。
ただ彼女に感情移入できないとイライラしてしまうかも。

エピソードは激しい物もあるものの、文体のせいか流れる空気はとても穏やかな印象である。
瑠璃子はカリグラファーで新田はチェンバロを作るが、作業を淡々と丁寧に描いていくところが好きだ。
そしてふんだんに出てくる料理の描写が、物語に人間味を与えている気がする。

==ねたばれ==

この家出により瑠璃子の生活は破綻し、最終的に彼女はひとりになる。
新田と薫は変わらずチェンバロを作っている。

主人公の日常に異分子が入り、それが引き起こす変化を描くパターンが物語の基本だけれど、
終わってみるとこの世界で変化の主体となったのは瑠璃子だった。
瑠璃子自身は大きな変化にみまわれ、彼女の動きにより周囲も撹乱させられたが、結局何もかも変わってしまったのは彼女だけかもしれないと思うと、虚しさを感じて妙に切ない読後感。

(読了日:14/1/3)

 

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